先生の秘密
「いや、覚えてないならいいのよ」
…本当になんだろう。
こんな殊勝な聖は久しぶりだから調子が狂うな。
でも、
さっきから頭の隅の方で燻っている、記憶のかけらがどうも気になる。
思い出したくない、と叫んでいる。
「何か、よく分からないけど。私がうなされてたっていうなら、気にする必要はないよ」
「…!」
驚いたように目を見開く聖は、すぐに細めて柔らかいはにかんだ笑顔を見せた。
どうしよう…、直視できないくらい可愛い。
「ありがとう、青葉」
「何で聖が感謝するのさ」
「だって、そう言ってくれると報われるじゃない」
おかしな話だ。
気を遣わなかったことが間違ってなかったって分かって、本人に感謝するなんて。
そういうところが聖らしいんだけど。
それに、私も気にしなくていいから、何だか楽なんだ。
「おっはよう!聖に青葉、今日も一日頑張ろうじゃないか!」
寮の前で待ち構えるなり、朝っぱらからテンションの高い挨拶をしてくるのは、最近中途半端に伸びてきた髪を切ろうか迷っている初夏だ。
心なしか肌がツヤツヤしている。