先生の秘密
「何の用かな?」
「忠告しておこうと思いまして」
口調は丁寧なのに、津川くんの表情や視線、態度は私を見下しているものに違いはなかった。
「忠告?」
「えぇ、本庄先輩。藤島先生に近づかないでくれませんか」
…藤島先生?
津川くんの狙いは、内海先輩じゃなかったの?
「どういう意味?」
「おやおや、本庄先輩ともあろう方が、まさかこんな簡単な“お願い”の意味が分からないわけでもないでしょう」
“お願い”なんて言いながら、彼は譲与するつもりなんてない。
質問じゃない、命令だ。
「どうして藤島先生なの?って聞いてるの。もし、藤島先生に何かするつもりなら、私は許さないよ」
じ、と睨みつけると、津川くんの眉が僅かにぴくりと動いた。
やはり、私以外には分からないくらいの違いだと思うけれど。
「…自分の立場、分かってらっしゃいますか?
俺は、いつだって生徒会の権限を使って貴女を退学させることができるんですよ」
そんなのは、嘘だ。
多分、一般生徒が生徒会の権限を知るはずもないと思ってあることないこと吹き込もうとしているのだろうが、残念ながら私には聖がいる。
聖は、全校生徒の体重、身長から、教師の家族構成、勿論生徒会の細かい権限についてまで情報を持っているのだ。
生徒を退学させる権限というのは、いくら生徒会でも許されていない。
許されていたとしても、そんな特別な権限は生徒会の実権を握る会長くらいだろう。