純情乙女の昼下がり
【3】
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しばらくの間自席で仕事や雑用をこなしていたら、佐々岡さんがこっちに向かって頭を下げているのが見えた。
いつもの、『作業が終わった合図』だったりする。
郵便物を開封する手を止め、私は佐々岡さんの元へ近寄った。


「テスト印刷で問題無かったから、これでしばらくは大丈夫」

「…ありがとうございました」

さっきのことは何も無かったかのような淡々とした口振りに少しほっとした。
ふと横の棚に目をやると、すっかり空になった背の高いグラス。手付かずのクリームとガムシロップを見て、佐々岡さんて見た目の通りブラック派なんだなぁと考えていたら。

「お、もう印刷できるの?」

嬉しそうに桧山さんがやってきた。

「いつも悪いね~、佐々岡くんが来てくれて助かるよ」

そんな桧山さんの言葉に佐々岡さんは、さっきまで私に見せていた黒い表情は一瞬も見せず穏やかに笑った。

「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」

陰では文句ばっかりのくせに!と、私が心の中で暴言を吐いていたら、目が合ってしまった。

「北村さんが手伝ってくださったので助かりました」

想像すらしていなかったセリフを、これまた想像すらしていなかった爽やかな笑顔で言われ、一瞬ポカーンとする。

(ホント、別人みたい!)
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