きみの腕の中で


その瞬間左の視界の端から肌色のものが見え、反射的にそれをよけた。

“それ”は、予想通りの彼女の握り拳だったけど

そんなことはどうでもいい。

よけられるとは思ってなかったのか、悔しそうに顔を歪めた彼女の表情が愉快でしょうがない。

外部からは『おお!!』と笑いをどこか含めたおどけた声がした。


「なにもしてない奴にいきなり喧嘩売るのかこっちの奴は?」


「うるせえっ!!だったらテメエはどこの奴だよっ!?」

馬鹿にしたようにわざとらしく鼻で笑ってやると、彼女は眉間に強くしわを寄せて再び殴りかかってくる。


ほんとに頭の弱い子なんだと思う。

意味のない喧嘩をふっかけることしかできないのかとしか思えない。

そして私を殴るまで気が済まないらしい。


だから私は次の拳を抵抗もせずただ黙って受けた。


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