CHERRY
「そのまま歌ってよ」
その女の子は無理な難題を私に突き付ける。
「……無理…」
顔を伏せながら言う。
でも最後の方は小さくなった。
…だって無理なんだもん…。
あの子みたいに人前で歌える程上手くないから。
「今日会ったばっかのあたしになんかに聞かせる様な歌声じゃないって?」
「…!そ、そういうわけじゃなくて……」
女の子が言った事にびっくりし、慌てて反論する。
…私は……女の子が言う様な、そんな凄い人じゃない。
「じゃあ何?」
「……人前じゃ歌えないんです」
「…さっきのは?」
「…聞いてる人がいなかったから…、みんな耳にするだけで、本当に聞いてる人が居なかったから…」
「そんなことないよ」
「え?」
女の子の言葉で女の子の方を向く。
「あ、やっと見てくれた」
そう言って笑みを浮かべた女の子。
真っ正面から見た女の子は
思ったより背が高く、上目づかいになる。
多分…165はある。
顔立ちは凄く綺麗な人。
髪型は前髪を上げていて
ストレートの髪はセミロングより少し長いくらい。
「須川涼<スガワ リョウ>。よろしくね、ゆず」
出会った子はおかしな子。
話して5分くらい、その短時間で私の何が分ったのかよく分らない。
でも…なんとなく
この子…――涼ちゃんに心は開けそうな気がした。
「う、うん…」
「ねーゆず、さっきの歌歌ってよ」
「えっ!?む、無理だよ……」
「なんで?あたし、あの曲好きになっちゃった。教えてよ」
そう言ってにこやかに笑う涼ちゃん。
教えるくらいなら……
そう思い、いいよと言った。
この歌詞のテーマは失恋。
男の子を蝶に
女の子を花に例えて書かれている。
―だいすきだよって 愛してるよって
キミはあんなに言ってくれた
時が過ぎれば忘れるなんてウソ
私からキミが離れない
でもキミまたヒラヒラと別の花に止まる
そう、気まぐれチョウチョは涙しかくれない―
「……曲は明るいのに歌詞残酷」
「だね」
「これ誰の歌?」