傷の行方

彼は「言う前に知ってたんだ



お父さんのことが問題らしいんだ」




私はもう うんざりしていた




うんざりだった



黙ってその日は帰った




母親に電話をして




父親の件で話をした




あの時の私は



どこにもぶつけることのできない感情を




一番近い母親にぶつけてしまった



なんで あんな男と結婚したの?



なんで あんな男と…



私 お母さんが結婚しなかったとして




私が生まれてこなかったなら



最初からなにもなかったなら



その方がよっぽどマシだった




確かに私はそういう言葉を




母親に向かって言ってしまった




電話の向こう側で黙っている母親と




こっち側で言ってしまったことに対して




母親を傷つけた罪の意識が



頬を流れた



< 119 / 210 >

この作品をシェア

pagetop