傷の行方
私が「そうだね 確かに経験してない」



というと


「うん 俺はさ 目の前で親父が倒れて


大きくなった心臓が止まって


全部見てきた


こんな悲しいことがあるのかと



毎晩思ってたよ」



そう言った そして彼が話を続けた


「あのね なんで俺がお前に会いに来たか



聞かないから言うけど


お前のお母さんから連絡がきたんだよ



知ってると思うけど俺は


情けでお前に会いにくるような


そういう人間じゃないから


落ち着いて聞いてくれ


お前のお母さんが心配してたんだ


お前がおかしいって


死ぬんじゃないかって


でも 母親なのに何をしたらいいのか


娘になにもしてやれない


心の病のことも理解してあげられない


娘を助けてくれませんかって言ってた」


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