傷の行方
同棲していた彼の噂が私の耳に入った



彼は誰とも付き合っていないと



ひとりで苦しんでいるという話だった



私だってそんなに簡単に



社内恋愛で彼と付き合ったわけではない



家に帰ると彼と一緒に眠っていた


ベッドにひとりで眠るのだ



家に誰も入れないのは



彼との思い出があるからだ



それでもいいと言ってくれていた


「彼をまだ想っていても


俺を好きでいてくれるなら


無理に忘れなくていいから」



と言ってくれた



私はどんどん夢中になっていたけれど



同棲してた彼とのことを



忘れたことはなかった



それでいいと思っていた



人の気持ちなんて



そんなにコロコロ簡単に



変えられるわけがない



「忘れた」と嘘を付く方が



後で相手を傷つけると



私は思っていた



彼がその時苦しんでいることも知らずに




< 93 / 210 >

この作品をシェア

pagetop