envyⅠ
部屋に戻って待っていると、さっきのおじさんが入って来た。
てっきり現物を持ってきてくれるもんだとばかり思ってたけどそれは違ったらしく、そのおじさん付き添いで私が買いに行く事になったらしい。
私が乗った車はドラッグストアの前で止まり、お金を渡され車から下ろされた。
中に入ってナプキンと薬を買って、いざ店を出ようとしたその時「ねぇ」といきなり話しかけられた。知らない人に。胃薬ってどこ?って。
たぶん年上のその人は、気品があって綺麗な顔なんだけど、雰囲気が独特で、異質だった。こんな人初めてだった。
「あそこあたりにあると思いますよ」
「えー、ここからじゃよくわかんないよ」
「…ほら、あれとか腹痛って、」
「あ、ほんとだ。ありがとう、僕って時々お腹が急に痛くなっちゃうんだよねぇ」
「そうなんですか…」
「今日もさ、知り合いと来てたんだけど途中で痛くなっちゃって。
まあ買い物に付き合わされて暇だし面倒だったんだけど、参っちゃうよねぇ」
「……はぁ」
「時間とらせないから!って言ってたのに1時間も待たされるんだよ?
しかも見終わったら隣の店行こうっていうし」
「……………はぁ」
「ほんと参っちゃうよね、しかもどっちがいいか聞いてくるんだよ?で答えたら次から次へ見せにくるの」
「…はぁ、それはまた…大変ですね…」
「まだまだかかりそうだったから座って待ってたんだけど、今度はお腹痛くなっちゃって」
「……へぇ」
「こういうのって波があるよね。ほら、今は痛くないけど、5分後はわからないでしょ」
「…はぁ」
「こんなに僕のお腹不安定なのにどんだけ待たせるんだって感じだよね」
この人、すごくよくしゃべる。こっちは適当な相槌しかうってないのにお会計が終わった後もまだ話してる。
「だからさぁ、良かったらさ、この後遊ばない?」
まだしばらくかかりそうだし、僕今本当に暇なんだ、と綺麗な口元を三日月にして言う。
その有無を言わせない笑顔が、なんだか怖かった。
これって所謂ナンパなんじゃない?って思ってもいい状況なのに、ナンパだと思えないくらいには。
「…忙しいので、無理です。すみません」
「大丈夫、そんなに時間とらないから!」
そういう意味じゃないのに、ただの断り文句なのに、じゃあ決定ね、と私の手を引いて店を出た。