envyⅠ
気恥ずかしさから目を泳がせたら、たまたま飾ってある絵画が目にとまった。
「あれ、気になる?」
「え?」
「ほら、あの絵」
「ええ、まぁ…綺麗ですよね」
「あれさ、ちょっと面白い仕掛けがあるんだよ」
そう言うと咲弥さんはキッチンから果物ナイフみたいな刃先の短いナイフを持ってきて、それを絵画と壁の間に差し入れた。
「……?え!ちょっと、何してるんですか!?!?」
「ん?ちょっと待って。見てて」
咲弥さんはナイフを左右に動かす
「ホテルの備品なのにまずいですって!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
カチ、という小さい音と共に壁から額縁が外れる。
そこにあったのはもう1つの絵だった。
コンテみたいなもので黒一色で壁にそのまま描かれたそれは、しっかり存在を主張してた。
落書きのように線は粗いのに、描いた人の息遣いが感じられそうなくらい繊細で素敵だった。
「面白いでしょ、こういうとこって長期滞在の客を飽きさせないように色々あるんだよ」
「すごいですね…じゃあ向こうのあの絵の裏も?」
「ううん、あそこにはなにもなかった。
これもたぶん、泊まってった人が面白がって描いてってそれをそのまま残してたんじゃない?」