桜ノ籠 -サクラノカゴ-
side 和季
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「良かったー、あの時カズ兄が呼び止めてくれて」
8時過ぎ、暗い夜道を二人で歩き、伽羅は嬉しそうにしていた。
「今まで、この道ずっとダッシュで駆け抜けてたんだよー」
「今朝オレに言えばよかったのに」
「だって、カズ兄あの店でバイトしてるの知らなかったもん。というか、バイトしてる事さえ知らなかった」
そっか…、昨日の今日で、互いの事、何も知らなかったな。
「じゃあ、オレの事も教えるから、伽羅の事も教えてくれよ?」
「うん、いーよ」
オレの提案に、伽羅は笑顔で応えた。
「じゃあまずは…、伽羅の好きな食べ物」
「食べ物…ガトーショコラかな、特にお母さんが作ってくれるやつ。あと、豆大福」
「お前甘いもんばっかだな…太るぞ」
「いっ、言わないで!部活引退してから、体重ヤバイんだからー」
「部活?」
「ソフトテニス」
そう言って、鞄でラケットの素振りの真似をする。
「甘いもんに、ソフトテニス…、お前、モテ要素満載だな」
オレの溜め息は深い。