桜ノ籠 -サクラノカゴ-
あの日、
樹々の葉は碧くて、暑かった。
帰り道で、青磁先生をよく知る女の人と会って、
夕立の中、
青磁先生と濡れた。
でも、
今、窓から見える空は高く、樹々の葉は紅や黄色に彩られている。
景色は、秋に変わっていた。
いつの間にー……
それさえも、うまく思い出せない。
あの夏の日から、私の心は止まってしまったかの様に、
動く事を、忘れてしまった。
また、
暗く深い闇に、墜ちてゆく。
記憶の欠片に、
青磁先生や茜さんの、心配そうな表情が浮かんでは消える。
そういえば、
時々、茜さんが来ていた様な気もー……
そんな事を考えていると、
また
眠くなって来て、そのまま、眠ってしまった…。