桜ノ籠 -サクラノカゴ-
ー記憶の欠片ー 紅い嵐
♢
「行かないで!」
叫んだ自分の声で、
目が覚めた。
「伽羅ちゃん、大丈夫?」
近くで聴こえる、聞き慣れた声。
横を向くと、
そこには茜さんが心配そうな表情で、私を見ていた。
「…あ、茜、さん?」
擦れたような声で、その名を呼ぶ。
そして気付く、
喉の痛みと、濡れた自分の頬。
「どうしたの?怖い夢でも見た?」
茜さんが、薄紫色のハンカチで私の頬を拭いてくれる。
怖い、夢?
ううん、
夢じゃ、ない。
「カズ兄が…、カズ兄が、行っちゃう!」
ガバッ、
と、私はベットから飛び出し、
おぼつかない足で、駆け出す。
カズ兄が、
カズ兄がーー
「行っちゃう!…カズ兄が、帰ってこない!」
「伽羅ちゃん!」
飛び出した私を、
茜さんが抱きしめ、止めた。