桜ノ籠 -サクラノカゴ-

「青…磁、先生。…青磁先生、青磁先生…」

呪文のように、
何度も、何度も、名を繰り返す。


名を呼び、そして、辺りを見回し、
やっと今の自分を取り戻した。


「あ、かねさん…、青磁先生、は?」


近くに、青磁先生が、いない。


それだけで、不安になる。



思い出す、
扉の閉まる、音。



その音は、

別れの、音。




まさか、

まさか…


「茜さん!青磁先生は、青磁先生はどこ?」


おぼつかない足で立ち上がり、
部屋の中を探した。




< 290 / 467 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop