桜ノ籠 -サクラノカゴ-
「青…磁、先生。…青磁先生、青磁先生…」
呪文のように、
何度も、何度も、名を繰り返す。
名を呼び、そして、辺りを見回し、
やっと今の自分を取り戻した。
「あ、かねさん…、青磁先生、は?」
近くに、青磁先生が、いない。
それだけで、不安になる。
思い出す、
扉の閉まる、音。
その音は、
別れの、音。
まさか、
まさか…
「茜さん!青磁先生は、青磁先生はどこ?」
おぼつかない足で立ち上がり、
部屋の中を探した。