桜ノ籠 -サクラノカゴ-
「伽羅ちゃん、大丈夫よ」

優しい声がして、
あたたかな掌が私の濡れた頬を拭った。


「大丈夫、大丈夫…」

呪文のように、
何度も、何度も、
茜さんの穏やかな声が、言葉が、

繰り返す。


「…茜、さん…。青磁先生は…?」

震える声で、尋ねる。


「…青磁は学校よ。夕方には帰ってくるわ」

変わらず穏やかに答える茜さん。



でも、

押し寄せる不安が、
思い起こす苦しさが、

私を追い立てる。


「青磁先生、いないの?」



いないの?



ここに?




< 303 / 467 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop