桜ノ籠 -サクラノカゴ-


「佐乃らしい色だな」


いつの間にか、
隣りに並ぶ青磁先生が、その黄色の花を見てそう言った。

「佐、乃?」

聞き覚えのない名に戸惑うと、


「佐乃瑛李香、成佳高の三年だ。伽羅ちゃんの一つ上」


瑛李香さん、
佐乃瑛李香さん、私の一つ上で、
カズ兄の一つ下。


「はじめて知りました。瑛李香さんの苗字と学年」

「そうか……」


それ以上、何も言わず、
青磁先生は丁寧に手際よく、汲んできたお水でお墓を清め、
いつの間にか用意していたお線香に火をつけ、
軽く振って、炎を消した。


お線香独特の香りが、
辺りを包む。


なんだか、

不思議と、落ち着いた。



一年前のあの日、

この香りに包まれ、泣き続けたというのに。







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