桜ノ籠 -サクラノカゴ-
〝沙智さん〟は、違う。
青磁先生の心を掴むくらい、
素敵な人。
私より、
青磁先生を知っている、人。
きっと、
この車の、この助手席に、
何度も乗っていた、人。
どうしよう……
もし、
青磁先生が〝沙智さん〟を選んだら……
そう思うと、
怖くて、
顔が上げられない。
怖くて、
動けないよ。
青磁先生……
微かに香るお線香と、
青磁先生の煙草の香りに包まれ、
外の雪が窓を濡らす模様を眺めながら、
私は、
滲みそうになる涙をこらえ、
唇を噛み締めていた。