桜ノ籠 -サクラノカゴ-



   ♦


「あの車、まだ乗ってるのね」

シックな内装のアクセサリーショップ〝fiore〟のカウンタ―越しに、
沙智は大きな窓の外に視線を送ると、

目を細め、微笑んだ。



その視線は、
アクセサリーが綺麗に並んだカウンタ―をはさんだ向かいにいる、
青磁へと移る。



青磁は、
沙智のその視線に重ねることなく、

目線を外に向けたまま、
微かに見える助手席の人影を見つめる。



「でも、君の座る場所はもうない」


そう答え、沙智の方をやっと向いた。



「ーーそのようね……」

青磁の以前とは違う視線を受け、
沙智の溜め息に寂しさが混じる。



が、

「けど、あの子と青磁が釣り合うとは思えないわ」



そう告げる沙智の目線は、
再び、

青磁を真っすぐにとらえた。






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