冬の日の犬のお話

名もなき老犬

腹水を抜いた老犬は、ふた回りも小さくなって、痩せたあばらを露わにした。


『白いキャビネットの右の開きに、業者が置いてった餌のサンプルがある。半生タイプのやつを食わせてやれ。』


老犬は体を小刻みに震わせながら、それでも真樹子の手からいくらかの餌を食べ、それから点滴の針を刺されたまま、前足を折って横になった。

これまでは溜まった腹水で胃が圧迫され、空腹であっても食べることができなかったのだ。

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