冬の日の犬のお話
老犬は小さかった。
弱々しい生命であっても、それが抜け落ちた後の亡骸は、ひとまわり小さく見えた。


獣医は老犬の口のまわりを拭い、折り曲げた足を静かに伸ばし、真樹子の置いていったマフラーを掛けた。



今度は、もっとマシな奴に飼われるんだぞ。



低いつぶやき。

この無愛想な獣医は、きっと何度もこの台詞を繰り返してきたに違いなかった。


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