冬の日の犬のお話
男は大股で近づいて、無言でダンボール箱を抱え、スタスタと診察室に入っていく。
真樹子が慌てて後に続くと、背中を向けたまま

『んで、どうしたの?』

と、つっけんどんに訊いた。
やはりこの男が獣医だった。


『あの…道端で動けないでいたんです。車にはねられたんじゃないかと思って…』


『アンタがはねたんじゃないの?』


獣医は、首だけ真樹子の方に向けて、敵意のこもった言葉を投げつけてきた。


『違います!』


真樹子は憮然として言い返した。
なんて獣医だ!
失礼にもほどがある。

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