コイアイ〜幸せ〜
「申し訳ありません、そちらは明日の朝一番で提出させて頂きます。というか、今は話しかけないで下さい。仕事の邪魔ですから」


う〜ん、私も言えるようになってきましたな。


「わかっててやっているんですよ、ほら、早く手を動かして下さい」


紙の束で耳元をスゥッと撫でられる。


ひぃっ、あんたはほんまもんの鬼や!


嫌すぎて、つい、使い慣れていない関西弁で突っ込んでしまったじゃないか。


「セクハラとパワハラのダブル攻撃ですか。いよいよ私も、転職を考えなければいけないようですね」


実は、少しドキドキしてるんだけど、あえて無感情に返してみる。


「まに受けないでください、書類はすでに完成済みです。俺なりの愛情表現なんですけれど、本気で嫌がって。山下さんは可愛いですね」


―――嘘つき。天然タラシの32歳め。


「可愛くなくてすいません。私はこれから、美味しいお酒に会いに行くんです。私の楽しみを奪わないで下さい」


その為に頑張っているんですから。


「美味しいお酒、ですか」


デスクチェアがクルリとまわされて、目の前には悪魔が現れた。


凄く爽やかな笑顔をたたえているよ、この人。


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