コイアイ〜幸せ〜
「そこの女。汚ねぇ手をどけろっ、つららを離せっ」


熱くない。
そう思った瞬間、扉のないこの部屋の入り口に、宗助の姿が現れた。


何処の国の王子さまですかっとツッコミそうになった瞬間、腕を掴まれていた力が弱くなる。


私は、熱湯入りの容器を持っているだろう彼女の左手を捻りあげると、素早く足払いをくり出した。


彼女が床に倒れ込んだことを確認する間もなく、私はみぞおちに拳を叩きこむ。

確認すると、彼女は気を失っていた。







護身術の習い事に行っていて、本当に良かった……。


役に立ったよ、師範のおじさん。



あの事件の後、自分の身を少しでも自分で守れるように、習い事を増やした。


ちなみに、実践は今日が初めて。
こんなに上手くいったのは、宗助が来てくれたから。


そんな彼に視線を戻すと、息を切らして汗だくだった。


「はぁ…携帯…に、出てみれ…ば、はぁ…つららが…あの…女と…一緒で、熱湯が、なんとか…言ってたから…」


あんなにかっこよく登場できたのは、携帯電話で話の内容が聞こえてきたからなんだね。



そして、私を必死に探してくれてたからなんだ。



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