コイアイ〜幸せ〜
「風が強くなってきましたね。家まで送っていきますよ」


松本さんが、ゆっくりと帰り支度を始めた。


家…?


今までならば、この後は何も言わずに私も何も聞かずに、身体を重ねるために車に乗った。


綺麗な夢を見せてくれる、綺麗なホテルの一室に。


松本さんが、私の家に寄るなんてことは絶対にありえない。


わかるんだ。


私の生活に、興味がないことなんて…。


「風邪を引きますよ。早く来なさい」


珍しく命令口調が出ている松本さんに、私は従うようにその後ろ姿を追いかけた。


彼の車の中。
私は、助手席にちょこりと座る。
たくさんの女の人が乗っているんだろうこの場所で、私は大人しく座ることしか出来ない。


車内には優しい別れの曲が流れていた。
素敵な曲だけど、今はあまり聴きたくない。


「松本さん…」


「なんでしょうか市田さん?」


相変わらずの優しい声。
私の大好きな人の声。


運転している仕草も、その髪も瞳も、私は本当に大好き。

だからわかるの。
松本さんが、私の気持ちを受け入れてくれないという事も。


でもね、本当の心くらい、私に覗かせて欲しいと思った。
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