コイアイ〜幸せ〜
「失礼します」


その部屋に足を踏み入れる。
私の苦手な人が、ゆっくりと顔を上げた。


「おはようございます。休暇はしっかりとれたみたいでなによりですね」


よくよく見ると、本当に顔が整っているのがわかって嫌だ。


「ええ、おかげさまで。ありがとうございます」


その迫力に負けないように、全身の力を込めて笑顔を作る。


「それで、私を朝早くに呼びつけた用件をお聞きしても宜しいでしょうか」


彼は、とびきりの営業スマイルを浮かべた。

うっ、私、負けてる…。


「貴方は責任感がとても強いから、そろそろ来るとは思っていました」


ん?…少し嬉しそう?
まさかね。


「今回の事は貴方だけの責任ではないよ。まぁ、事前に防げたのでね、よしとしましょう」


「うるさい会社が一つ、無くなることですし」


こいつ、もしかして営業妨害の事に気づいてた?
しかも、本来の目的はコッチですか。
道理で根回しが早い訳だ。


心の中の声が悪態をつく。

あぁ、私、彼の前だとどんどん性格が悪くなっていく。


「今回の事についてですが、…俺はわざと貴方を外しました」


…はぁ!?


思わず口が空いてしまった。
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