コイアイ〜幸せ〜
コンコン
私は今、普段よりも重たそうな扉をノックしている。
「どうぞ」
中からは、一言だけ。
それだけでも、私の背筋に力が入るには充分だ。
「失礼します」
私は、できるだけ感情を表に出さないように、部屋に入る。
彼は優雅な仕草で、私に座るように促した。
「山下マネージャー、今回の企画案の説明してを下さい」
そこにいる男の名前は松本 晃一。
彼は、大学を卒業したあと一流企業に就職しておきながら、面白くない、と言い残して海外に渡った。
そして、自らこの会社に就職したかと思うと、32という若さで重役ポストに着き、今、私の目の前にいる。
――ふざけた人だ、と思う。
自信家で、それを隠そうともしない。
動物に例えるなら、黒豹みたいな印象を与える人。
ミスを認めない眼差しが向けられている。
私の苦手なタイプだと思う。
こくり。
緊張で、唾を飲み込んだ。