雨音色
どん、どん。


扉を力強く叩く音がした。


「今日は夜の来客が多いこと」


持っていた湯飲み茶碗をちゃぶ台の上に置くと、


彼女はそう呟きながら、玄関の方へ歩いた。


そこには、いつもは洋装の牧が、和服姿で立っていた。


急ぎのようだ、彼女はそう思った。


「あら、牧先生。どうされましたか?こんな時間に」


「壮介君は?」


傘をさす牧の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。


「それが、何時の間にか見当たらないのですよ。

さっきまでいたのですが・・・」


牧が困惑したような表情をした。


「実は先ほど、

先日、壮介君が見合いをした相手の山内殿から電話がありまして。

幸花お嬢様が行方不明だそうなのです。

そこで壮介君なら何か知ってるかと・・・」


彼女はしばらく黙った後、こう続けた。


「牧先生。壮介が現れるまで、

ここでお待ちになられたらいかがですか?」


「・・・え?」


彼女は笑った。


「大丈夫ですよ。幸花お嬢様も、きっと直ぐに見つかりますよ。

さ、お上がりください。濡れてしまいますよ」


再度の雨が、強く強く、降っていた。


彼女は微笑みながら、乾き始めていた大きめの手拭を、彼に手渡した。
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