雨音色
「ただいま」
「おかえりなさいませ。幸花様は、見つかったのですか?」
牧が家に着くと、遅いにもかかわらず、
着物のままの妻が、彼を出迎えてくれた。
「・・・あぁ。見つかったよ」
「そうでございましたか」
彼女も安心したのだろう、ふぅ、と小さくため息をついて、胸をなでおろしていた。
「布団の方はもう用意しておりますが、もう一度お風呂に入られますか?」
「・・・」
彼は、ただ玄関に立ちつくしたまま、彼女を見つめた。
「・・・どうされましたか?」
彼より、10歳ぐらい若い妻である。
見合いで出会った人だった。
恋をした訳ではない。
見合いで、親の勧める女性と結婚する、というのが、当り前だと彼は思っていた。
きっと、彼女もそうに違いないはずなのに、
彼女はここまで献身的に尽くしてくれる。
何故自分は、今までそれを不思議に思わなかったのだろう。
「・・・君は・・・」
「はい?」
彼女は小首をかしげた。
少し皺の寄った瞳を細めながら、その唇に、優しい微笑みを常にともす。
彼は、意識的に息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。
「どうして私にここまでしてくれるのか?」
「・・・は、はい?」
訳が分からない、そう言いたげな表情で、彼女は彼を見つめている。