雨音色
「君は、ただ親に勧められて私と結婚しただけだろう?
・・・私が好きで結婚した訳ではない。
それなのに、どうしてここまで私に尽くしてくれるのか、不思議に思ったんだよ」
彼女は大きな瞳を2,3度ぱちぱちと瞬きさせた後、
ふ、と噴き出した。
「・・・何が可笑しい?」
少し不機嫌そうに、彼が尋ねた。
「申し訳ありません」
彼女はあわててそう言うも、尚も可笑しいのか、
ふふふ、と笑ってから、彼の問いに答えた。
「貴方様も、そうでございましょう?」
彼は黙ったまま、ただ1回だけ、頷いただけだった。
「確かに、私たちは愛し合って結婚した訳ではございませんでした。
それは覚悟の上でしたし、皆がそうなのですから、そのことについて、
あまり不満はございません。
・・・でも、私は、結婚してから、ずっと貴方様と一緒に過ごしてきて、
貴方様の優しさや、懐の大きさを見てきました」
彼女は年甲斐もなく、耳まで真っ赤にしながら、
恥ずかしそうに俯いて、突然小声で呟くように、その先を続けた。
「・・・そうですね、恐らく、私は、今、貴方様に恋をしていると思います・・・」
彼は、自分の耳を疑った。