雨音色
「失礼します。お嬢様・・・」
「・・・」
真っ暗の部屋に、女中のタマが部屋に入ってきた。
「お嬢様、お着替え、ここに置いておきますよ」
ベッドの上に横たわる彼女の傍に、タマは着替えのネグリジェを置いた。
「・・・ねぇ、タマ」
か細い声が響く。
「・・・はい」
タマに背を向けたまま、幸花は呟いた。
「タマは結婚して何年ぐらい?」
「かれこれ、25年くらいですかねぇ」
タマは指で数えるそぶりを見せた。
「・・・結婚って、楽しい?」
えへん、と一つ咳払いをした。
「えぇ。お嬢様が思っていらっしゃるよりも、ずっと」
タマはベッドの傍に跪いた。
まだあどけなさが残る横顔に、彼女は右手を添える。
幸花はそこにそっと自分の手を重ねた。
「お姉さま達を見てると、結婚なんかしたくないわ」
大きなため息が、行き場もなくその場を彷徨う。
「好きでもない人と生活して、毎晩知らない人と社交パーティーして、それぞれ別に恋人がいて、そんな結婚は意味があるの?」
タマは黙っていた。ただ優しく彼女の髪を撫でるだけだった。
「お父様は、御自分はお母様と一緒になれて良かったかもしれないけど、どうして私達をつまらない人達と結婚させようとするのかしら」
誰の目から見ても、父と母は愛し合っていた。
未だに父が他の女性との結婚を勧められても断り続けるのは、母が忘れられないからなのであろう。
「子が親の幸せを願うのは当然ですよ」
「だったら・・・」
タマは幸花の口の前に人差し指を置く。
「結婚で幸せになれるかはお嬢様次第ですよ。さぁ、もう遅いですからお休みください」
「私次第・・・」
タマは掛け布団を掛け直した。
「お休みなさい、お嬢様」
「・・・お休みなさい」
外では、緑の風が優しく吹いていた。
「・・・」
真っ暗の部屋に、女中のタマが部屋に入ってきた。
「お嬢様、お着替え、ここに置いておきますよ」
ベッドの上に横たわる彼女の傍に、タマは着替えのネグリジェを置いた。
「・・・ねぇ、タマ」
か細い声が響く。
「・・・はい」
タマに背を向けたまま、幸花は呟いた。
「タマは結婚して何年ぐらい?」
「かれこれ、25年くらいですかねぇ」
タマは指で数えるそぶりを見せた。
「・・・結婚って、楽しい?」
えへん、と一つ咳払いをした。
「えぇ。お嬢様が思っていらっしゃるよりも、ずっと」
タマはベッドの傍に跪いた。
まだあどけなさが残る横顔に、彼女は右手を添える。
幸花はそこにそっと自分の手を重ねた。
「お姉さま達を見てると、結婚なんかしたくないわ」
大きなため息が、行き場もなくその場を彷徨う。
「好きでもない人と生活して、毎晩知らない人と社交パーティーして、それぞれ別に恋人がいて、そんな結婚は意味があるの?」
タマは黙っていた。ただ優しく彼女の髪を撫でるだけだった。
「お父様は、御自分はお母様と一緒になれて良かったかもしれないけど、どうして私達をつまらない人達と結婚させようとするのかしら」
誰の目から見ても、父と母は愛し合っていた。
未だに父が他の女性との結婚を勧められても断り続けるのは、母が忘れられないからなのであろう。
「子が親の幸せを願うのは当然ですよ」
「だったら・・・」
タマは幸花の口の前に人差し指を置く。
「結婚で幸せになれるかはお嬢様次第ですよ。さぁ、もう遅いですからお休みください」
「私次第・・・」
タマは掛け布団を掛け直した。
「お休みなさい、お嬢様」
「・・・お休みなさい」
外では、緑の風が優しく吹いていた。