雨音色
出会い
朝7時半、太陽が東の空にようやく昇りきろうとしている頃、
周囲の状況からあまりに浮いている車のエンジン音とともに、布団にくるまっていた藤木は聞きなれた声で起こされた。
「これ、起きろ!これからお前を変身させる」
言われるや否や、かけ布団を剥がされた上、返事も待たれずに、彼は何人かに引っ張られ、髪の毛をいじられた挙句、
「早く着替えろ!」
と寝ぼけまなこの彼に洋装が投げられた。
彼は命じられたままそれを着用し、それを着終わったころ、ようやく自分の置かれている状況を把握した。
「あぁ、今日はお見合いで牧先生が洋装を持ってくるんだっけ・・・」
そう思ったのも束の間、彼はそのまま車の中に連れ込まれていった。
否、押し込まれたという言葉のほうが的確かもしれない。
「いってらっしゃい」という母の声が聞こえたような気がした。
「大帝国ホテルまで急いでくれ。ここからでは時間がかかるからな」
いつも以上に興奮気味の牧の隣には、いつも以上に疲れた顔をした藤木が座っている。
「かしこまりました」
運転手も、どこか少し上機嫌のようだった。
彼らを乗せて、黒光りするそれは勢い良く走り出した。