雨音色
いつぞかの欧州で見た、荘厳な門が、
ゆっくりと開いていく。
そして、中からは、1人の人影が現れた。
車内に居る全員が、その人影を見つめる。
その人影も、こちらを窺っているようだった。
「・・・もしかして」
幸花がそういうと同時に、彼女は車から外へ出た。
「・・・お嬢・・・様」
その人が、おそるおそる、そう呟く。
「・・・タマ・・・」
「お嬢様!」
疲れた表情を見せたタマの姿が、そこにはあった。
「お嬢様っ!どこに行ってらしたのですかっ!」
怒声にも似た声を発し、タマが鬼のような形相で幸花に走って近づいてきた。
びく、と幸花の体が震える。
彼女の手が宙へと上げられた。
「・・・あ、ちょっ・・・止めてくださ・・・!?」
叩かれる、誰もがそう思った、その時だった。
「・・・っ!?」
彼女の体は、ふわり、と優しくて温かい感触に包まれていた。
タマの2本の腕は、しっかりと幸花の体を抱きしめていた。
その場が、静寂に包まれる。
「・・・ご無事だったのですね・・・。本当に良かった・・・」
タマの声は、微かに震えているようだった。
「・・・ごめんね」
強張っていた幸花の顔も、次第に優しい顔へと変わっていく。
そしてその手をタマの背中へと這わせる。
「良いのです。・・・お嬢様が無事であれば、それだけで・・・」
強く抱きしめられる中、彼女は一人思うのだった。
昨夜、壮介の母に、言われた言葉を。
『不幸の上に、幸せは成り立たない』
そう、不幸にしてはいけないのだ。
この人を、・・・こんなにも心配してくれる人を。