雨音色
「・・・宜しい。やはり、君はとても優秀だ」


彼が立ち上がる。


「君は、とても良い人間だ。・・・個人的に、私は君を評価している。


君が学者として大成することを祈って止まない。


君に出会えたこと、幸花と会わせたことに、悔いは無い」


当主が立ち上がるということ、それは、客人に対して、


暗に退室を促されているものだった。


牧が立ち上がろうとして壮介の方を一瞥した。


しかし、壮介は立ち上がりもせず、その言葉に重ねるように、その先を続ける。


両手は固く握られたまま、両肘の上に乗せられていた。


「・・・理解はできております。


・・・ですので、どうぞ、しばしの時間を私にください」


まっすぐに前を向いた壮介の顔は、これまで長く付き合ってきた牧が見た中で、


1番自信に輝いているように見えた。


「僕の家は、将来、山内家を支えることになった時、


今のままではあまりに脆いです。


僕自身も、まだまだ学者としては歩き出したばかりです。


・・・でも、僕には自信があります。


必ず、誰もが幸せになれるように、僕が誰よりも強くなれることを」


強い瞳だった。


朗らかで、少しひ弱な感じのいつもの彼からは想像できないぐらいに、


そこにはとても強い意志が存在した。


「あと2年お待ちください。


・・・僕は、独逸で必ず今の研究を大成させてみせます。


そして、この研究が成功した暁には、


恐らく僕は、山内家を支えるだけの力を得ている筈です」

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