雨音色
それは、とても静かな空間だった。


沈黙だけが支配する空間を破ることは、タマには躊躇われた。


しかし、今、それを破らなければ、何も変わらない。


彼女に課された本当の仕事を、こなすことはできない。


「・・・旦那様、それは、本心で仰っているのですか?」


タマは、幸花と違って、感情的になることはない。


それが、あまりに合理性を欠く手段であることを知っているからだった。


それに応じて、英雄も静かに答える。


「・・・あぁ」


「嘘、ですね」


タマは、すかさず答えた。


彼は、顔色一つ変えず、静かにタマを見ていた。


「・・・奥様と結婚された旦那様は、ご存じのはずです。


本当の幸せが何かを。ご自分の娘に、本当の幸せを掴ませてあげるのが、


取るべき道ではございませんか」


しばらくの沈黙の後、彼は、大きなため息をついた。


それが、これまでの彼の心の内を垣間見せる。


「・・・私が何よりも恐れているのは・・・」


はぁ、と再び長い溜息をついて、彼は続けた。


「私のように、どちらかがどちらかを失った時、自分を責め続けること、だ」


彼の瞳は、悲しそうに揺れていた。


タマは、何も言わない。


互いの瞳は、互いに向いているのに、見えているのは、


はるか遠い昔、この場所で展開された、古い出来事。


「・・・相手がどう思っていても、私が、彼女に苦しい道を歩ませたのは事実だ。


寿命を縮ませたのも、全て、私の責任だ。


私なんかと結婚していなければ、もっと幸せな人生が送られたはずなのに」

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