雨音色
暗い廊下に、ぱたん、とドアの音が響いた。
窓から差し込む月明かりだけを頼りに、タマは廊下を歩く。
目的地は、既に決まっていた。
タマの瞳は、真っすぐだった。
全てを決めた、そんな瞳だった。
彼女の動きが、ある部屋の前でとまる。
この屋敷の中で、2番目に大きい部屋だった。
立派なドアが、彼女の前に立ちはだかる。
いつも叩きなれたドアなのに、彼女は中々その手を上げない。
ドアをたたいた瞬間、全てが変わる。
そう、全てが。
タマは、目を閉じた。
そして、これまで歩んできた道を思い返してきた。
10代半ばで、この山内家に使用人として雇われた。
一番の親友の恋を応援して、次期当主との結婚を応援して。
そして、今。
その娘が、彼女いわく「最高の幸せ」を、その手に得ようとしている。
大きく息を吸い込む。
そして、吐きだした。
ドアの、ノックと共に。
「・・・はい」
中から、少し落ち込んだ声が聞こえてきた。
「・・・お嬢様、・・・タマでございます」