雨音色
「・・・一雨、降るのかなぁ・・・」
出港した時はあんなに晴れていたのに、
窓の外から見る空は、既に黒い雲に覆われていた。
彼は、大きな部屋の窓に背を持たれさせ、窓の外を眺めていた。
今回は、政府の一員として独逸へ向かう。
やはり、待遇が全然違う。
まるで、貴族の様な扱いだった。
豪華絢爛と呼ぶべき部屋に、1人用とは思えない大きなベッド。
ふかふかの絨毯に、
十分すぎる果物の載せられた金属のお皿。
全てが、違う。
これもやはり、・・・政府派遣の留学だからだろう。
はぁ、と大きなため息をつくと、とんとん、と誰かがドアをたたく音がした。
「はい」
そう返事をしながら、彼は上体を起こし、
ドアの取っ手に手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。
「藤木様、お部屋はお気に召されましたか?」
「あ、はい」
目の前には、オールバックで、白い詰襟のようなものに、
黒いズボンをはいた男性が立っていた。
「私、今回藤木様のお世話を仰せつかっている者でございます」
「あ、そうでいらっしゃいますか」
間の抜けた様子で対応しているな、ということは自覚していた。
少しいぶかしげな様子を見せたものの、さすが、一流階級に接しているからだろう、
直ぐに満面の笑みへと変わっていく。
「時に、藤木様。あと1時間で、バンケットホールで晩さん会を開きます。
従いまして、こちらのタキシードにお着替え願いますか。
1時間後、お迎えにあがりますので」
返事をする間もなく、彼の両手に立派なタキシードが載せられていた。
「・・・え、ちょ・・・」
そんな話、初耳だった。
戸惑うばかりの藤木に頬笑みを投げ、彼はすたすたと立ち去ってしまった。
「政府派遣だと、こんなことまでしてくれるんだ・・・」
彼は感心のため息を零しながら、扉を閉めた。