雨音色
無謀な彼女は、結婚を後悔していたのだろうか。


看取った最期を思い出す。


何かを彼に伝えたい。


だが、それを自分がどのように表現すれば良いか分からなかった。


そもそも、表現して良いのかさえも。


ただその場で、その背中を見つめているしかなかった。


いつもは大きく見えるそれも、今だけは、とても小さく見えた。


「・・・娘にまで苦しい思いは、させる必要はない。

そう、思うのが親として普通ではないか・・・」


蝉の鳴き声が、廊下中に響き渡る。


彼女がこの世を去ったあの日のように。
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