雨音色
「・・・どういう事?」


タマは続けた。


「あのお方は、お嬢様とは全く違う世界の人間だったのでございます。

つまり、庶民階層の人間なのでございます。

山内家の一員である以上、庶民と結婚するなぞ、世間が許しません」


薄暗い部屋に、静けさが漂う。


あの時言うべき筈だったのであろう言葉を今、伝えている。


その遅さが、滑稽な位に悲しい。


しばらくして、幸花がその静けさを打ち消すように口を開いた。


「・・・だから?」


幸花の声が震えていた。


「だから何なの?

私は、私は世間の為に、山内家の繁栄の為に結婚するのが義務なの?

お姉様達みたく、好きでもない人と暮らして、

夫婦共に外で他に愛人作ることが結婚なの?

そんな生活送るぐらいなら山内の名前なんか要らないわ!」


幸花が精いっぱいの大声を絞り上げた。


タマはただ、静かに幸花を見つめていた。
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