雨音色
「お嬢様。世間はそんなに甘くないのですよ」


タマが諭すように言った。


「私達は生まれつきそれぞれの身分があり、そこには義務があるのです。

貴女様は貴女様の身分がございます。

そして、私には私の身分がございます。

私が貴女様にお使えするのも、身分故に課される義務だからでございます。

これは永遠に変えることはできない、運命なのです」


強く、厳しく、


世の理を教えてやらねばならない。


山内家の女中として。


そして、幸花の母の過去を知る数少ない人間として。


「・・・そんなの・・・」


タマはそれ以上何も言わなかった。


幸花は無言のまま、再びベッドの上にその顔を埋め、


止まらないそれを、ただただ流し続けるのであった。


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