雨音色
「・・・お嬢様に1度、会っていただけませんか。


会って、貴方様を諦めるよう、説得してくださりませんか」


沈黙が再び落とされた。


鈴虫の歌声が、彼らの間をさ迷う。


彼は瞼を落とした。


そして瞳を閉じたまま。彼が口を開いた。


「その必要はございません。


僕は早ければ年内に独逸に向かう予定です。


日本には当分帰れません。


僕達は縁が無かった、と。


そう、お嬢様にお伝えください」


藤木は瞼を開き、再び微笑んだ。


開いたその瞳に、迷いは映っていなかった。


彼は分かっていた。


今こそ幕を引く時なのだ、と。


所詮、身分違いの恋など、いつの日か二人で見た西洋の映画のように実るはずがない。


現実とは、そういうものなのである。


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