バベル
《結花side》


「結花さん、ちょっと話があるんだけど、2人きりで話せる?」

柔らかい笑顔で優奈さんが私に話し掛けてきた。


私はいつも通りに美しい言葉を使う。
言語教師をしているためなのか勝手にそうなるのだ。


「さっきマジックミラーの向こうにいたあたし達のターゲット、見覚えない?」


――……え?
確かにそう言われてみればそうかもしれない。


「あたしホテル ラフェスタでコンシェルジュしてるんだけど、彼が来たことあった気がする。」

これはあたしの推理なんだけどね、と話し始めた。

彼女によれば全員真船と顔を合わせたことがあるのではないか、とのことだった。

確かにあのスピーカーの女なら考えかねないだろう。
私もただのターゲットではないだろうとは思っていたのだが。

だから彼女の推理も一理あると思えた。
なぜ私に話すかは疑問だが。

「私は三条学園の語学全般を教えています。でも学生時代はイタリアにいたんです。その時取引させていただいた相手が彼と似ていました。」

取り敢えず話を合わせておいた。

とりあえず私はホッとした。

今はまだ二十歳の頃のことを気付かれるわけにはいかない。



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