バベル
「父さんは秘書官の妻、
榊紀子と浮気してた。
俺は怒りより悲しみの方が
でかくて、ずっと泣いてた。
俺はその晩帰ってこない父さんに
たった一通、メールを送った。
“帰ってくるよね?”って。
当然、返信はなかった。
そして帰ってくることもなかった。
それなのに俺は父さんが馬鹿みたいに好きで
父さんに失望すべきことが
起こっても、俺にはヒーロー
に見えてしまった。」
「お母さんは?」
「母さんは、狂った。
飲めないはずの酒を
毎晩浴びるように飲んで、
手首はリストカットの跡
だらけになった。
前は身綺麗にしてたのに
今はネグリジェばっかで。」
「そうなんだ。」
「このままじゃ家庭崩壊する
と思った俺は、受験勉強の息抜き、と思って榊さんの家に行った。」
「うわ、チャレンジャーだね。」
「俺も自分ですごい行動だと思うよ。
でも行かずにはいられなかった。
榊さんとは
もともと仲良くしてもらってて
榊さんの息子とは幼なじみだった。
その幼なじみに会いにいくのを
口実に、俺は家をぬけだした。」