愛なんて無かった
返事をするかわりに『彼』の頬を撫でる。
そのままそっと滑らせて唇を親指でなぞる。
薄いのに柔らかい感触が気持ち良くてずっと触れていたいと思った。
「ミホ」
もう一度呼ぶ『彼』に触れていた親指がくすぐったい。
『彼』は、名前呼んでと呟く。
なのに呼ぶ前に唇を塞がれた。
その舌はあたしを溺れさせてはくれない。
直ぐに離れる唇が寂しい。
「リク」
だから、あたしは呼んだ。
『彼』の名を。