愛なんて無かった
触れたい
「……ミホ」
後ろから抱き締めたリクは溜め息を吐いて小さな声であたしの名前を呼んだ。
偽りの名前を。
自分の行動がいまいちよく解らないあたしは急に動けなくなってリクの肩に顔を埋める。
「冷たっ」
何故か楽しそうにそう言うリクはあたしの回した手を握る。
そして、ゆっくりとあたしの方に振り向く。
「髪の毛乾かさないと風邪引く」
その声に顔を上げると息が触れる程の距離で、目は逸らせない。
――違う
「ミホ…」
そう呼ぶリクの瞳にはあたしが映っている。
――あたしは、そんなの要らない。