魔女さんと青春してる僕ら


 スーパーにいる時間が、いつもより短かった。食材選びは大雑把にして、そうそうにレジを済ませて、ご近所のおばさまたちを適当にやり過ごしたからだった。
 花沢さんがいない。それだけのことなのだけれど、やる気が全く違ってくるのだ。食卓が1人減る場面を想像すると、無性に寂しくて仕方ない。「会議だから」と、理由はきちんと知っていても。

 レバニラ炒めは、ただの野菜炒めにした。レバーの臭みをとる手間が、急に面倒に感じたから。煮物は、母親のために筑前煮にした。サラダは、スーパーのやつをそのままお皿に盛った。
 何だか、2人分をしっかり作った後に見た食卓は、色褪せたように見えた。

 数分後に、母親が家に帰ってきた。いつものように筑前煮に飛びついて、今日のことをいっぱい話した。
 でも、そこで僕は気付いてしまった。「毎日毎日、本当にお疲れさまです」と伝える為に頑張っていた食卓は、すっかり違う色に染まっていたことを。その違う色が、何なのかはさっぱり分からなかった。

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