幸せという病気
「ワシはずっと長い間、あの日を許せないでいる。兵藤の親父をじゃない。大事な人を助けられなかった自分をだ。武・・・兵藤はあの事件以来、ワシと出会って自分の親父と同じ世界に入った。なんでかわかるか?」


茂が武にそう聞くと、武はどうしてだと聞き返す。


「ワシへの謝罪だそうだ。兵藤の親父は鉄砲玉に過ぎない。こいつの親父に殺しの指示を出した大元の組織をしょっぴこうとしているワシに、弘樹は手を貸しているつもりだそうだ」


「・・・わけわかんねぇよ・・・」



武は話がまだ理解出来ない。



「要するにだ・・・ヤクザになって、ワシの家族を殺した奴らをワシに逮捕させようと、スパイみたいな事をやってるらしいんだよ。いつまでも馬鹿みたいに・・・」


「・・・馬鹿みたいにってなんですか・・・俺は波川さんの為に・・・」



弘樹が口を挟むと、茂は突然怒鳴った。



「ワシの為だぁ!?ガキがかっこつけてんじゃねぇ!!」


「・・・」


弘樹が黙ると茂は一つ溜息をつき、言葉を投げる。


「もういい。おまえが謝罪する必要はねぇ・・・命を大切にしろよ兵藤・・・何も解決しない、何も得られない。おまえが綺麗なスーツ来て、かっこつけてその道を歩いてる事に、何の意味もねぇよ。ワシが無くしたモンはおまえじゃ拭えない。一生背負っていかなければいけねぇのは、『自分』だ。おまえがワシの過去を背負う必要はねぇんだ」




それを聞くと、今度は弘樹がゆっくり話し始めた。




「・・・波川さん・・・俺が背負っているモンは、親父だ。あのくそったれな親父なんだ・・・俺はあいつの息子なんだよ・・・親父の責任は俺が取る」




そして茂が言い返す。




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