幸せという病気
それを聞き、竜司は穏やかな顔でジャブジャブ泳いでいる香樹を呼んだ。


「竜司兄ちゃんも泳ぐぅ?」

「俺、泳げねぇもん」

「えーっ!カッコ悪ぅ~」

「あ~カッコ悪いさ」


そして香樹を抱き抱え、竜司は楽しそうに話し出す。



「香樹はお姉ちゃん好きか?」

「好きだよ~?」

「じゃあ、二人で守ってやろうなっ」

「うん!・・・竜司兄ちゃん、髭痛い・・・」


そして夕飯が終わり、六人は共に過ごせる残り少ない時間を楽しんだ。

やがてすみれと祖母、香樹の三人が寝ると、武は誰もいない電気の消えたロビーにいた。

と、そこに疲れた顔でフラフラと遥が現れ、武の横に座ると、缶ジュースを飲みながら話し始める。


「お兄ちゃん、なんでギター持ってきたの?」

「曲作るから」

「へぇ~。すみれさんの前でかっこつけたいだけかと思った」

「なんだそれ」



笑って武が答える。



「・・・」

「・・・」



と、少し沈黙になり、しばらくして遥が口を開いた。



「・・・お兄ちゃん」

「・・・ん?」

「ありがとう」

「・・・なんで」


そのまま遥は武に寄り添いかかり、ゆっくり話し出す。


「・・・私、もう悔い無いよ?」

「・・・おまえまたそんな事・・・」



武の言葉を遮るように遥は続ける。



「いいんだぁ・・・もう。私・・・この家族に生まれてよかった・・・」

「・・・」

「すみれさん離しちゃダメだよ?お兄ちゃんをあんなに想ってくれる人これから多分いないよ?」

「・・・どーゆう意味・・・?」

「綺麗だし、もったいないよ絶対。それからおばあちゃんももう歳だし、家事手伝ってあげないと・・・それと、香樹はこれからどんどん大きくなるよ?大丈夫?」

「・・・大丈夫・・・だろ・・・」

「面倒見れるの?」

「・・・おまえが見ろよ」

「・・・私はもう見れないよ」

「・・・」
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