幸せという病気
携帯が鳴る。


「いってらっしゃいっ」

「おぅ」


電話はすみれだった。


「受かるといいねぇ」

「まぁ・・・一週間で作った歌だし・・・どうだろね」

「・・・って言っても聞かせてもらってないからなぁ~」


すみれは電話の向こうで皮肉がる。


「悪い悪い。昨日出来たばっかだしさ」

「頑張ってっ」

「うん。ありがと」


電話を切ると、次は竜司からかかってきた。


「武さん!」

「何?」

「頑張って下さい!」

「うん」

「あの・・・それしか言う事が・・・」

「・・・いいよもう」


笑って武が答えると、遥が電話を代わる。


「お兄ちゃん!」

「何?」

「・・・頑張って!」

「おまえらそれしかねぇのか」


武は一週間で作り上げた曲をひっさげ、諦めかけていた舞台へと向かう。

すでに何の迷いも無く、武の頭には過ぎ去った今日までの出来事がグルグルと駈けずり回っていた。


両親や友達の死。

香樹や竜司、すみれの事。そして遥の事・・・。



同じ時を過ごしながら笑い合い、助け合い、涙しながら人は見えない何かに向かって行く。







『幸せ』








おそらく、知らない内に誰もがそれを手に入れようと努力し、挫折し、それでも夢見て探し求め歩いていく。


先の事は誰にもわからない。


誰もが知っているその事実を、どのように受け止めるか。





気持ち一つで『世界』は変わる。







それが『可能性』を生み、『希望』を見出す。

『希望』がやがて『幸せ』に変わる事を信じ、武は目を光らせて歩いて行った。



恐れを消し去り、力強く。



ただ淡々と、暗く冷たい雨空の下を・・・。
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