幸せという病気
遥はその言葉に驚く。
「・・・なんで・・・お父さん?・・・」
ドアがゆっくりと開き、病室に黒い傘を持った細い中年の男性が病室に入ってきた。
「・・・お父さん・・・なの?・・・」
「そうだ」
遥は目に涙を溜める。
「・・・どうして・・・」
「・・・遥・・・悪かったな・・・大丈夫か?」
父親が優しく遥にそう話すと、遥の頭に幸せに暮らしていた当時の記憶が蘇った。
「・・・お父さん・・・刑務所じゃ・・・」
「・・・娘が病気の時に・・・げほっ・・・あんな所にいられるか・・・」
父親は時折、深い咳をしながら話す。
「・・・会いに来てくれたの・・・?」
「・・・当たり前だ・・・おまえは俺の大事な娘だからな」
「お父さん!!」
遥は、嬉しさで父親にしがみついた。
「・・・大きくなった・・・武も・・・遥も・・・」
「うん・・・香樹に・・・香樹にも会ってあげて・・・?」
それを聞くと、父親は黙る。
「・・・お父さん?」
「香樹には・・・会えないかも知れない・・・」
「どうして・・・」
そして父親は話を逸らし、力の無い声で話し始めた。
「遥・・・男親っていうのは・・・娘に嫌われるモンだ・・・」
「え?」
「・・・汚ねぇし、臭ぇしな・・・」
それを聞き、遥が微笑むと、父親は笑顔で続ける。