幸せという病気
ふいに叔父は、母親とその隣にいた遥を拳で殴りつけた。




「うるせぇよくそったれ!!馬鹿そうな娘連れやがっていきがってんじゃねぇ!」






叔父は荒れ狂い、罵声を放つ。







「・・・てめえこの野郎・・・何してんだ馬鹿ヤロー!!」






そして今まで我慢していた父親の理性は完全に消えうせた。


家中を叔父と父親の罵声が飛びかい、母親は殴られた衝撃で強く頭を打ち倒れこむ。


父親と叔父は殴り合いの喧嘩となり、当時十七歳の武は止めに入るが、大人二人を相手では力無くはじき飛ばされる。

遥は叔父に顔を殴られ、口から血を流して泣きながら、うずくまる母親を震えた体で精一杯抱き締めていた。

やがてクスリの影響からしばらくすると、叔父は体力が無く父親の下で殴られ続ける。

武の止めも気にも留めず、父は拳で殴り続けた。




三人の子供を抱きかかえた、優しく包み込むような父親の手はその時、実の弟をめった殴りにする真っ赤な凶器に変わっていた――。




目を瞑り武は悟った。



もう今までの楽しい生活は終わったと。



今までの、武が知っている父親の姿はもう見れないと・・・。



目をひんむき、たまらず武は叫んだ。







「もうやめてくれ親父!」







武の叫び声で、近所の住民がやっと異変に気付き、警察へ通報したときにはもう遅かった。




畳中に血が染み、父の体の下で叔父は死んでいた。




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